セーシェル共和国(Republic of Seychelles)は、インド洋西部に位置する島国で、アフリカ大陸の東岸から約1,600km離れた場所にあります。主に115の島々から成り、その多くは珊瑚礁や花崗岩で形成されています。首都はマヘ島に位置するヴィクトリアで、国の政治・経済の中心地です。セーシェルの人口は約10万人と少なく、公用語は英語、フランス語、セーシェル・クレオール語の3つです。イギリス植民地時代の影響が色濃く残っており、法律制度やビジネス環境にも英米法系の特徴が見られます。観光業が主な産業ですが、近年では国際金融業にも注力しており、タックスヘイブン(租税回避地)としての地位を築いてきました。これは法人税やキャピタルゲイン税が免除される制度や、外国人でも容易に法人を設立できる柔軟な規制によるものです。さらに、政治的安定性、通信インフラの整備、海外資本に対する開放性などが、セーシェルをオフショア拠点として魅力的な存在にしています。
まずセーシェルでは、特定のオフショア法人(特に「International Business Company:IBC」と呼ばれる形態)に対して法人税が課されないという特徴があります。これにより、海外で得た利益に対して一切の課税が行われず、事業活動や投資収益を効率的に蓄積・運用することが可能となります。また、キャピタルゲイン税、源泉税、相続税なども基本的に免除されており、税務上の負担は極めて軽く抑えられています。次にセーシェルでは、外貨の取得・送金に関する規制がほとんど存在せず、国際的な資金移動が非常にスムーズに行えます。さらにセーシェルのIBC制度では、取締役や株主の情報を公開登記しなくてもよい仕組みが長らく採用されてきました。これにより、企業の所有構造を外部に知られることなく管理することが可能です。また、「ノミニー制度(名義人制度)」を利用することで、実際のオーナーが公に名前を出すことなく法人運営を行うこともできます。こうした匿名性の高さが、資産保護やプライバシー確保を重視する個人・法人にとって大きな魅力となっています。このように、税制の優遇、資本移動の自由、そして匿名性の高さという三つの要素が、セーシェルをタックスヘイブンとして国際的に注目させています。
前述したようにセーシェルで最も一般的な法人形態は「International Business Company(IBC)」です。IBCの設立にあたり、現地に居住していなくても法人を所有・運営することが可能です。設立に必要な基本書類は次の通りです。・希望する法人名(事前に重複確認が必要)・取締役および株主の情報(1名以上、個人・法人いずれも可)・登記上の所在地(セーシェル国内に必要)・登録エージェントの指定(政府公認の代理人)・個人証明書類(パスポートや住所証明)とKYC(顧客確認)情報の提出も求められますが、これらは非公開です。
セーシェルの法律では、法人を設立する際に現地の登録エージェントを通すことが義務付けられています。登録エージェントは、政府と事業者の仲介役として、設立書類の準備・提出、登記手続き、法令順守の確認などを担います。また、設立後の年次更新手続きや、法的通知の受け取りなどの継続サポートも提供されます。設立手続き自体は迅速で、書類が整えば1~3営業日で登記完了することも珍しくありません。費用については、依頼するエージェントによって異なりますが、初期費用は600~1,200米ドル程度が一般的です。加えて、毎年の更新費用や登記住所の維持費用も必要です。このように、セーシェルでの法人設立は比較的簡易かつ迅速であり、世界中の事業者や投資家が拠点として活用しています。
セーシェルで設立されたオフショア法人は、資産の分散保有や保護を目的として利用されることが多く、信託やファンド構造と組み合わせて設立されるケースもあります。たとえば、不動産や金融資産をIBC名義で所有することで、プライバシーの確保や法的リスクからの回避を図ることが可能です。また、相続対策の一環として、個人資産を法人に移管する活用も見られます。また、貿易やサービス取引を行う際、セーシェル法人を中継拠点として使用することで、売上や利益を効率的に移転・管理することができます。たとえば、仕入先と販売先の間にセーシェル法人を挟むことで、利益を税負担の少ない環境に集約させることが可能です。このようなスキームは、クロスボーダー取引のコントロール強化にも寄与します。そして、セーシェル法人を用いて、海外銀行口座や証券口座の開設を行うケースも一般的です。法人名義で開設することで、資産の流れを個人と切り離すことができ、匿名性や資金管理の柔軟性が向上します。香港、シンガポール、ドバイなどの国際金融都市で口座を開設する際、セーシェル法人が受け入れられている実績もあります。
このように、セーシェルで設立されたオフショア法人は資産管理、税務戦略、国際ビジネスの拠点として柔軟に活用できます。